『いただきます』

(しょく)()()(かん)(もん) …食事の前に唱えることば…

一つには 功()()(しょう)(はか)()(らい)(しょ)を量

食事が出来上がるまでには、自然の恩恵や人々のどれほどの苦労があったであろうか、そのよって来たるところを思い量りながらこの食事を頂戴します。

二つには 己()(とく)(ぎょう)(ぜん)(けつ)(はか)って ()(おう)

自己を振り返り、徳のある行いが完全であるか欠けているのかを推し量り、この供養に応じることと致します。

三つには 心()(ふせ)(とが)(とん)(とう)(はな)るるを(しゅう)とす

悪心の起こることを防ぎ、貪・瞋・癡の三毒などから離れることを教えと致します。

四つには (まさ)(りょう)(やく)(こと)とするは (ぎょう)()(りょう)ぜんが(ため)なり

食物は正に良薬と心得て、心と体に必要なだけ頂きます。

五つには 道業(じょう)ぜんが(ため)(まさ)にこの(じき)()べし

仏道修行を完成するために、まさにこの食事を頂戴します。

 

禅寺では、朝・昼の食事をいただくときに「般若心経」というお経を含め、全部で5種類のお経を唱えてから食事をいただきます。

その内の一つが上記の「食事五観文」というお経です。それぞれのお経の下に訳を書いていますが、さらに砕いて訳しますと。

一. 目の前の食事は、農家の方や運送会社の方。料理人やお母さん達によって目の前に運ばれて来ているということに想いを馳せましょう。

二. その様々な人の手によって運ばれて来た「この食事」をいただくだけの日頃良い行いをしているかどうか自分自身を省みましょう。

三. 好き嫌いすることなく、むさぼることなく(腹八分目)、食事をいただきましょう。

四. この食事をいただくことで心身ともに健康になりましょう。

五. 自己の本分(例:仕事や家庭のこと等々)を充実させるためにこの食事をいただきます。

となります。

 

『いのちをいただく』という絵本。

この絵本には、食肉加工センターの「坂本さん」という実在の人物が登場します。

坂本さんの職場では毎日毎日たくさんの牛が殺され、その肉が市場に卸されています。

牛を殺すとき、牛と目が合う。そのたびに坂本さんは、「いつかこの仕事をやめよう」と思っていました。

ある日の夕方、牛を荷台に乗せた一台のトラックがやってきた。

「明日の牛か・・・」と坂本さんは思った。

しかし、いつまで経っても荷台から牛が降りてこない。不思議に思って覗いてみると、10歳くらいの女の子が、牛のおなかをさすりながら何か話しかけている。その声が聞こえてきた。

「みいちゃん、ごめんねぇ。みいちゃん、ごめんねぇ・・・」

坂本さんは思った、「見なきゃ良かった」。

女の子のおじいちゃんが坂本さんに頭を下げた。

「みいちゃんはこの孫と一緒に育てました。だけん、ずっとうちに置いとくつもりでした。ばってん、みいちゃんば売らんと、お正月が来んとです。明日は宜しくお願いします・・・」

「もうできん。もうこの仕事はやめよう」と思った坂本さん、明日の仕事は休むことにした。

家に帰ってから、そのことを小学生の息子のしのぶ君に話した。しのぶ君はじっと聞いていた。

一緒にお風呂に入ったとき、しのぶ君はお父さんに言った。

「やっぱりお父さんがしてやってよ。心の無か人がしたら牛が苦しむけん。」

しかし、坂本さんは休むと決めていた。

翌日、学校に行く前に、しのぶ君はもう一度言った。

「お父さん!今日は行かなんよ!!(行かないといけないよ)」

坂本さんの心が揺れた。そしてしぶしぶ仕事場へと車を走らせた。

牛舎に入った。坂本さんを見ると、他の牛と同じようにみいちゃんも角を下げて威嚇するポーズをとった。

「みいちゃん、ごめんよう。みいちゃんが肉にならんと皆が困るけん。ごめんよう。」と言うと、みいちゃんは坂本さんに首をこすり付けてきた。

殺すとき、動いて急所を外すと牛は苦しむ。坂本さんが「じっとしとけよ、じっとしとけよ。」と言うと、みいちゃんは動かなくなった。

 

次の瞬間、みいちゃんの目から大きな涙がこぼれ落ちた。牛の涙を坂本さんは初めて見た。

 

この絵本のあとがきに。

「私たちは奪われた命の意味も考えず、毎日肉を食べています。自分で直接手を汚すこともなく、坂本さんのような方々の悲しみも苦しみも知らず、肉を食べています。『いただきます』『ごちそうさま』も言わずにご飯を食べることは私たちには許されないことです。感謝しないで食べるなんて許されないことです。食べ残すなんてもってのほかです・・・」

 

お経を毎日あげることで気づけた人。お経をあげてても気づかない人。お経をあげなくても気づけた人。全く気づかない人。いろんな人がいますが、できるなら気づける人でありたいですね。

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