
令和二年二月の伝道板です。
『 精出せば 凍る間もなし 水車 』
【働羅漢】(ハタラカン)
昔々、奥山の方広寺に照安(しょうあん)という怠け者で喰いしん坊の小僧さんがいました。
庭掃除の時はホウキを投げ出してリスを追いかけたり、薪割りを頼まれても沢ガニを捕まえて遊んでばかり。そしてお供え物のお饅頭や果物を取ってきては、こっそり食べていました。
ある日のこと、照安さんは参道の傍らで小さな石のお地蔵さまのようなものを見つけました。
愛嬌のある可愛らしい顔をしていたので袂に入れて小僧部屋に連れて帰りました。
翌日、いつものように和尚さんの言いつけも守らず、お経をサボって一日中遊んでお供え物をたらふく食べて部屋に帰ってみると、昨日拾ってきたばかりの石仏が二回りほど大きくなっていました。
少しおかしいなとは思いましたが、次の日もその次の日も一日遊んでお饅頭を食べて照安さんが帰ってくるとまたまた石仏は大きくなっていました。毎日毎日遊んで食べて一日を過ごすと石仏はどんどん大きくなっていきます。
ある夜、夢を見ました。
照安さんがお掃除も草取りもせずに何もせずにお供え物ばかりたらふく食べていたので、体は二倍にも三倍にも大きくなってしまい、気がつくと石のように重たくなっていました。
どこからともなく和尚さんのお経の声が聞こえてきます。
「一切喰う役・・・喰う喰う、ふ〜い〜・・・腹満たし〜腹がイテェ〜無限悲しい〜・・・飲むから足んねぇ、喰うから足んねぇ・・・」と。
照安さんはお腹が苦しくて苦しくてたまりません、でも起き上がれません。
そう、ゴロゴロに太った石仏になっていたのです。
ただただ一生懸命「もう喰う症状、怖ぇにぃは照安」と、お経なのか遠州弁の寝言なのかを繰り返していました。
朝がやってきて、もう懲り懲りの照安さんは和尚さんのところへ行って昨夜の夢のことを話して心の底から謝りました。
和尚さんは目を細めて「そうかハタラカンが来てくれたんじゃな。」
「え?ハタラカン?」
「そうじゃ、ハタ羅漢じゃよ。怠け者がこの奥山方広寺に来ると必ず羅漢さんが働かぬ小僧さんに乗り移って修行させてくれるのじゃよ。人が動くと書いて働くじゃ。端(はた)を楽にするのが働くじゃ、解るか?」
「ところで、夢に出てきたお経は般若心経とか大悲呪じゃ。」
「そして照安のその寝言じゃが、観音経に出てくる『無垢清浄光 慧日破諸闇(むくしょうじょうこう えにちはしょあん)』という尊い教えなのじゃ、っはっはっ・・・。」